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今夜の番組チェック

この作品は、水無月小説の中でもかなり特異なモノです。

どう特異かというと・・・まず、テーマが狂った人間であるあたり、かな?

狂ったと言っても、別にyosのようなではありません。まぁ、ある意味彼も狂っているのかもしれないが(笑)。

結構ダークな作品ですので、ちょっとは覚悟して読んでもらえると嬉しいです。

それでは、どうぞ本編をお楽しみ下さい。

 

 愛情の裏側に潜む欲望。独占欲、束縛欲、破壊欲・・・愛すれば愛するほど、滅茶苦茶に壊したくなる。

自分だけのモノにしたくなる・・・そう、僕一人の君でいて欲しい。僕のための君であって欲しい。

もしそうならないのなら、誰かの手に渡ってしまうのなら、いっそのこと、君を・・・

 

鉄鎖の天使

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 誰もいない、真っ暗な山道。何で私は、こんな所にいるの?何でこんな所に来てしまったの?何であんな男に、ついてきてしまったの?

ーずっと前から君のことを見ていた。今日一日だけ、僕につきあってくれな いか?返事は、それから・・・ー

 確かに、いい男性だと思った。誘われるまま車に乗り込んで、軽くうとうとしていたら、そしたら・・・

「はぁ・・・ぁうっ!」

 下草に隠れて見えなかった根っこにつまずく。一回転して背中から打ち付けられ、一瞬息が止まった。

「はぁ・・・」

 何とか、息を整えて立ち上がる。どれだけ走ったのか分からないけど、一歩を踏み出すのが難しいほどに疲れていた。もう、へたりこんでしまいたいほどに・・・

「・・・」

 それでも、立ち止まれない。恐怖が背中から追い立ててくる。殺される。捕まったら、殺される。

 がさがさがさがさ・・・

 草のこすれる音。はっとして振り返って、私は暗闇を凝視した。何も見えるはずなんてない。でも、目が離せない。恐怖で身体が縛られて、身動きがとれない・・・

「・・・」

 どれぐらい時間が経っただろうか。暗闇からは、何も現れなかった。きっと、風が下草を薙いでいったんだろう。

「・・・逃げなきゃ・・・」

 走る気力もない。引きずるように脚を前に動かす。今にも倒れそうだ。心臓が痛い・・・

「・・え・・・きゃぁぁ!」

 草に覆われた地面が、無かった。足を踏み外して、捕まるものもなく下まで滑り落ちる。

「・・・はぅっ!」

 数十メートル滑り落ちただろうか。立ち上がろうとして、私は右足に激痛を感じた。足首が、変な方向に曲がっている・・・

「う・・くぅ・・・」

 激痛に耐え、這うようにして、私は草を掻き分けながら進んだ。と、突然に視界が開ける。道路・・・道路だ。

「あ、はは・・はははは・・・」

 自然と、笑みが込み上げてきた。逃げた。逃げ切れたんだ。これだけ立派な道だったら、車だって通るはず。満月が私を照らす。泥だらけの自分。でも、構わない。逃げ切れたから、それで良い・・・

「あははははは・・・」

 痛みも感じない。動かない右足を引きずりながら、私は道路を歩いていく。どっちがどこに繋がっているかなんて知らない。でも、いつかは人里につくだろうから。しばらく歩いていたら、後ろからライトが迫ってくるのが見えた。私は思わず、道路に飛び出す。乗せてもらったら、助かる。生きて帰れる。

 キャキャキャキャキャァァァ!

 けたたましいブレーキ音が響き渡る。跳ねられるなんてことは、頭になかった。

「馬鹿や・・・おい!大丈夫か?」

 罵声が、一転して心配そうな声に変わる。ふらふらの私を見て、運転席からまだ若い男性が飛び出してきた。

「何があったんだ?・・・とにかく、乗れよ。病院までつれてってやるから。」

 私の肩を支えて、その男性が助手席に乗せてくれる。私はされるがままに、シートに身体を沈めるように座った。

「痛くないか?いや、痛いよな・・・なるべく静かに運転するけど、ある程度は我慢してくれ。」

 しきりに私のことを気にしながら、男性は静かに車を発進させた。

「・・・何だ、こりゃぁ?・・・」

 いくらも走らない内に、頓狂な声とともに車が止まる。閉じていた目を開けて、私はその言葉の意味を理解した。

「何・・・これ・・・」

 道路一杯に転がる無数の残骸。人の形をしたマネキンだけど、ヘッドライトに照らし出される姿は人のそれと見まごうほどだった。あるいは手足がバラバラに切り取られ、あるいは頭だけが無く、あるいは縦に二つに切り裂かれ、あるいは微塵に粉砕され・・・数十とも思えるマネキンの残骸が、道を塞ぐように散らばっている。

「薄気味悪いな・・・トラックから落ちたにしちゃ、不自然だしな・・・誰かがばらま いたのか?でも、こんな所に不法投棄もないだろう・・・」

 車を停車させて、男性が運転席から外に出る。通れるだけの隙間でも、作る気だったのだろうか。男性がマネキンをどけようとしゃがんだ瞬間、マネキンの残骸の中から人影が立ち上がった。

「!」

 叫ぶ暇もない。私が注意を喚起しようとした瞬間に、人影の手の中にあった大きな物体が男性の背中目掛けて振り下ろされた。

 べきゃ!

 生々しい音が響く。くぐもった男性の悲鳴。崩れ落ちる男性に向かって、二回、三回とそれは振り下ろされる。その度に、肉を潰し骨を砕く音が私の耳にはっきりと届いた。

「この・・・が・・・から・・・なんて・・・ものか!」

 人影が何かを口走っているのが聞こえる。断片だけだけど、何となく想像が付いた。私の体は動かない。今の内に逃げなくちゃならないのだろうけど、私の瞳はいまだ男性に向かって物体を振り下ろす人影に吸い付けられたままだった。

「・・・」

 悲鳴も聞こえなくなる。

「・・・め・・・っとめ・・・盗人め・・・盗人め!」

 もう動くこともなくなった男性の体に、人影はそれでも振り下ろす手を緩めない。何分経っただろうか?唐突に人影は私の方を向き、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「・・・」

 悲鳴も出ない。ただ、ひゅーひゅーと息が漏れるだけ。

「・・・」

 ヘッドライトに照らし出された姿。血塗れで、服も髪も真っ赤で、でも真っ黒の瞳。その瞳に狂気の色をたたえ、歓喜の表情で・・・怖いのに、怖いはずなのに、逃げ出したいはずなのに・・・それなのに、私の体は動かない。

「・・・すものか・・・どこにも行かすものか・・・僕だけの君、僕のための君・・・ 僕には君が必要なんだ。君だって僕が必要だろう?僕を愛してるんだろう?逃げるなよ・・・僕の元から、逃げようとするなよ。何で逃げたんだよ・・・どうしてだよ!」

 ヒステリックに叫びながら、右手に持った手斧のようなモノをボンネットに叩きつける。何回も、何回も・・・私はただ、固まったままその姿を呆然と見つめていた。逃げたのに、逃げられたはずなのに・・・どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?・・・

「さあ、帰ろうよ・・・僕達がいるべき場所へ。僕と君のための家へ。僕は君を愛しているんだ。君をどこへもやるも  のか。僕達が出会ったのは運命。君だって、それを理解したから僕と一緒に来てくれたんだろう?さっきの奴だって、僕から君を奪おうとしていたんだ。死んで当然さ。当然の報いなんだ。僕から君を奪うモノは、裁くんだ。僕が、僕の手で、君のために。可哀想に・・・怖かったろう?もう大丈夫さ。僕がここにやってきたんだ。君を助けに来たんだ。ほら、ドアを開けて出ておいで。」

 狂気の瞳、狂った人間・・・私は動かない。動けない・・・

「ほら、何をしてるんだい?ドアを開けて、出ておいで。出ておいで。出て、出て、出て、出て・・・」

 斧を持っていない方の手で、窓ガラスをがんがんと叩き始める。表情、 変わる。歓喜の表情から怒りの表情へと。

「出て来いって言ってるだろう!早く出てこい!僕を怒らせる気か?僕の言うことが聞けないのか!早く出ろ!出  ろ!出ろ!出ろ!出ろぉぉ!」

 斧が振り下ろされる。窓ガラスを打ち砕いて、それはドアに食い込んだ。砕け散ったガラスの破片が降り注ぐ。痛みは、感じなかった。でも、あちこちから血が出ている。

「出ろ、出ろ、出・・・出ろ・・・ああ、ごめんよ。君を傷つけるなんて、僕はなんて 愚かなことをしてしまったんだろう?僕は綺麗な君の肌に一片の傷もつけたくないん だ。分かってくれるだろう?綺麗なままの君でいて欲しいんだ。ああ、何故僕は、君を傷つけてしまったんだろう?僕は愚かだ。愚か者だ・・・なんてことだ・・・君は美しい。まるで天使のようだ。」

譫言のように、恍惚とした表情で呟いてるのをただ呆っとながめるだけ。もう、何も考える力もない。

「そうだ・・・天使の翼が、君を空へと誘うんだ。翼が無くなれば、君はどこにも行か なくなる。そうだろう?翼なんてモノがあるから、君は、君は、君は、君は・・・あ あ、君がどこかへ行ってしまう。そんな、そんなこと・・・君がいない生活なんて僕には考えられない。僕には耐えられない。君が必要なんだ。君のためなら何でもするよ。欲しいモノは何でも手に入れる。ああ・・・だから、僕の元を去らないでくれ。君がいないと、僕は生きていけないんだ・・・」

ドアが開けられる。血塗れの手が私の腕を掴んで、私を車の外へと引っぱり出した。右足が痛んだような気がした。でも、その感覚は遠い。引きずられるように林の中へと入る。枝や下草が私の体に傷をつけているみたい・・・

「ここが僕達の家だ。ここで僕達は、愛し合って生きるんだ。君を不幸になんてしやしない。僕だけが、真に君を愛しているんだ。上っ面だけの腐った人間なんかとは違う。僕がいるんだ。君の側には、僕がいるんだ。それだけで十分だ。君をどこにも行かせない。誰にも渡さない。ああ・・・僕の天使。僕だけの天使・・・君に天に帰る羽なんて必要ない。そんなモノ、僕が切り落としてあげるよ。」

 薄暗い粗末な小屋。私の前で斧を振り上げる、狂った人間。その斧が振り下ろされて、体のどこかに痛みが走ったけど、それがどこだか特定できない。意識が朦朧としているから。

「どこにも行かせない・・・もうどこにも行かせない・・・そうだ。君はもう何も見なくていいんだ。見れば、誘惑されるから。それなら、最初から何も見えない方が良い。そうだよ。そうだ、そうだ、そうだ、そうだ、そうだ、そうだ・・・見えるから、ダメなんだ。聞こえるから、ダメなんだ。喋れるから、ダメなんだ。君には何も必要ない。僕がいれば、君にはそれで十分だろう?僕だけがいればいい。僕だけが必要なんだ。僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が、僕が・・・さあ、僕を愛していると言ってくれ。僕が君を愛していると言ったように・・・ああ、なんて美しい声なんだ。その声が、その声が僕以外の人間を惑わせるんだ。その美しい声は罪。僕にだけ聞こえればいい。僕以外に聞かせることなんて、許せない!許せない、許せない、許せない!」

 目の前が真っ暗になる。無理矢理口がこじ開けられ、私の口から何かが切り取られた。でも、何も感じられない・・・

「ああ、美しいよ。君は美の女神だ、神だ・・・欠陥なんてどこにもない。どこにもおかしな所なんて無い。ああ、僕はなんて幸せなんだろう?君という存在が、僕を幸せにする。僕は、君を愛しているんだ。愛してる・・・ああ、なんて甘美な響きなんだ・・・」

 声だけが、頭に響く。狂った声、狂った人間・・・狂ってる。絶対に、絶対に狂ってる。

「誰にも君を渡さない。狂った人間から、君を守ってみせる。だから安心して・・・誰にも手は出させないよ。君を傷つけさせるモノか。君は完璧だ。完璧な君は、僕の モノでないといけないんだ。僕以外の手に渡ってしまうぐらいなら、いっそのこと君を壊してしまった方が良い。君を真に愛せるのは、僕だけなんだ。僕だけ、僕だけ、僕だけ、僕だけ・・・誰が来ても、君を渡さない。」

 私の体に何かが巻き付けられる。じゃらじゃらという音とともに、ひんやりとした感触が伝わってくる。

「なんて、なんてすばらしいんだ・・・君は僕のためにあるんだ。僕だって君のためにある。僕達は一つなんだ。二人で、一つの生き物なんだ。だから、だからいつまでも、いつまでも僕と君は一緒なんだ。誰にも邪魔なんてさせるモノか。邪魔する奴なんて、さっきの奴みたいにしてやるんだ。僕が君を守る。守る、守る、守る、守る、守る・・・」

 途中から、何も聞こえなくなった。意識が深い深い淵へと誘(いざな)われていく。私は、死んだのかもしれない。そんなことすらも、分からないから・・・

 

「ああ、なんて美しいんだ・・・愛している、愛してる、愛してる、愛してる・・・」

 真っ白な頭部をなで回す、この感触が、君の愛なんだね?腐ったような変な臭いも、君の愛だったんだね?そうか・・・君も、僕を愛してくれたんだ。やっと、愛してくれたんだ。大丈夫さ。僕は怒ったりなんてしないよ。そう、僕はこの日を待っていたんだ。やっと、やっと用意していた言葉が言えるんだから・・・

 

「さあ、これをつけて・・・これで僕達は、夫婦になれるんだ・・・」

 肉の感触のない、ただ硬いだけの真っ白な、細い指。左手の薬指に、僕は指輪をはめる。・・・少し、サイズが大きかったんだね。くるくるくるくる、回っているよ。ああ、でも、でもこれで、これでやっと、やっと、やっと・・・やっと言えるんだ。君に、君にこの言葉を。ああ、どれだけこの日を待ち望んでいたことか。もちろん君なら受け入れてくれるさ。僕達は愛し合っているんだからね。さあ、言うよ。心の準備は出来たかい?・・・

ー結婚しようー

鉄鎖の天使 終