LEVEL55 危険な島 後編
「それで頼んでいたものは?」
「ほい、これだよ。」
ケイがドサッと紙の束を清麿に渡す。
「清麿、何なの、それ?」
「侵入から逃走までの考えられるパターンを限り全部用意してもらった。」
「え……まさかそれ全部そうなの?」
『そうですが』
ティオが紙の分厚さに驚愕する。軽く30枚はあって、その1枚一枚に細かく色々と図解入りで書かれている。
「侵入には?」
「この時間だとA3ルートになるかな。逃走にはB2〜B14を使う。
状況に応じて最適なルートを選択してくれ。わかってると思うが突入前に全部記憶してくれよ。」
「ああ。Cルートは使わないのか?」
「それは危険度A以上の場合にだ。よほどのことがなきゃ使わない、というか使いたくないよ。
ところでリィエンさん、パートナーのええと……ウォンレイだっけ?彼の身体能力は?」
「え、ええと少なくとも普通の人間より高いと思うある。
接近戦で強いタイプあるから……」
「うーん、じゃあB15もいけそうだな。」
「それが一番良さそうだな。今回の目的はあくまでウォンレイを助け出すことだからな。」
「「……」」
真面目に話している二人を余所にティオとリィエンが呆然としている。
特にティオは普段のケイを知っているだけに別人のように見えるのだろう。
『まぁ……気持ちはよくわかりますが、マスターの唯一の特技ですから。』
「唯一って言うなよ!悲しくなるだろう!?」
ケイのツッコミが聞こえるがクノンはあえて聞こえない振りをして清麿の方に声をかける。
『意外と驚かれないんですね?』
「ジェイで慣れたからな……数日でこれだけのルートを用意してきたのは驚いてたけどな。
自分自身だけじゃなく他人の逃走経路まで確保できるとは。」
「思ってたより凄いのね。逃げることだけに関しては。」
「ハハハ、褒めても何もでないぞ優男!
一流の逃走者はそれぐらいできないとな!
あ、コーヒー飲むか?防弾チョッキもあるぞ!」
(多分、普段人から誉められたことがないんだろうなぁ……)
嬉しそうなケイからコーヒーを受け取る。
「サイズが合えばいいんだが……っ、誰だ!?」
ケイが防弾チョッキを荷物から取り出していた途中に慌てて振り返る。
「ケイ、どうした?」
「いや、視線を感じて……」
ケイは魔本を手にとり、慎重に辺りを見渡した後、クノンへ視線を送る。
『付近の他の魔力反応ゼロ、および大きな生命反応ありません。」
クノンが答える。
「気のせいじゃないの?」
「尾行は……されていたらケイが気づいてるか。」
ティオと清麿も周囲を警戒する。
「人の気配はしないアルね……」
「うーん……でも何か嫌な視線を感じたんだけどなぁ。
何かこう悪意のある視線っていうか……冷たい意思を感じるっていうか。」
『マスター、それ私です。』
「お前かよ!「誉められてはしゃぐなんて子供もいいところですね、でもマスターにはそれしか取り柄がありませんから仕方ないですね」とでも
言いたいのかよ!」
『口に出さないのはせめてもの優しさだったんですが。
あと声真似ないでください。』
「……そろそろ出発しよう。」
放っておけばいつまでも繰り返されそうだったのでケイに出発を促す。
全員がボートに乗って、後は出発するだけとなった時、清麿が辺りをもう一度見渡す。
(周囲に人も魔物もいなかった……それはきっと正しい。)
クノンの魔物を感知する能力がどれほどの範囲かはわからないが信用できるだろう。
それにもし悪意をもった魔物がいれば恐らくケイが反応しただろう。
リィエンも武術の達人らしいので人の気配を察知する力はそれなりにあるだろう。
よって、この付近に魔物も他に人もいない。それはほぼ確実だろう。
(だがケイが反応したのは本当にクノンのものだったんだろうか……)
以前共に戦ってケイには危険を感じ取る力が強いことがわかっている。
ケイは悪意、冷たい意思と言った。クノンがパートナーであるケイに本当にそのような感情を持っているとは思えない。
(つまり、可能性としては……この付近ではなく、もっと遠くから見ている、と。
まさかな……。)
リィエンの追っ手を巻くためにこの場所にたどり着くまでにケイのアドバイスを元にかなり複雑なルートを通って来た。
今から向かう島へ直接行くルートならともかくこの場所を突き止められるとはとても思えない。
もし、そんなことが出来る相手がいて、悪意をもって自分達を見張っているとしたら……
「どうしたの?」
「いや、何でもない。」
ティオの声に頭を切り替える。今はウォンレイの救出が最優先だ。
どの道、戻るという選択肢は存在しない。時間がないのだ。
「見えてきたある。あれがウォンレイ閉じこめられている所……」
リィエンの言葉に皆の視線が島に集まる。
「妖岩島ある。」
「いかにもって所だなぁ……」
上陸する。事前の調査のおかげか上陸自体はスムーズだった。
「うまく上陸できたはいいが……警備が物厳しいな。」
「この島には父の組織の財宝や武器が隠されてるって、噂で聞いたある。」
「そうそう、それそれ。警備には日本のヤクザなんか比じゃない本物のマフィア揃いって話だったけど……マジだよ!
やっべ、黒服+サングラスとかパーフェクトだよ!それにしてもマフィアは流石に武装も半端ねぇな。」
警備の全員が銃、それも拳銃ではなくマシンガンを携帯している。それに人数も多い。
それを確認して全員に改めて緊張がはしる。
僅かな沈黙の後、リィエンが口を開く。
「本当に危険なのはこれからある。清麿達、本当に協力してくれるあるか?」
それは最後の確認だった。
いかに魔物の力をもってしても、危険なことには変わりはない。
この先、魔物はともかく人間は下手したら命を落としかねない。
「俺達が行かなくても、あんた一人で行っちまうんだろ?」
緊張した声で清麿が答える。
「……ええ。その通りある。」
僅かに微笑んだ後、その笑みが消え、真剣な表情になる。
そこには揺ぎ無い決意があった。
例えここで一人になろうとも彼女は助けに行くだろう、それがどれほど危険なことであろうとも。
「なら、俺達の答えは決まってる。なぁ、優男?」
ケイが前に出る。そこにはいつもの冗談を言ってるような顔ではない。
例えるなら任務を遂行しようとする兵士。
「俺が相手をひきつける。その隙にウォンレイを。」
清麿達が頷く。
クノンは黙ってケイの隣に並んだ。
ケイの本が輝きだす。
「クノン……行くぞ!」
『イエス、マスター。』