LEVEL56 戦う勇気 前編
「奴らはどこにいった!?」
「あっちだ!あっちに逃げたぞ!」「くそっ、逃げ足の速い奴らめ!」
黒服の男達の声があちこちであがる。
その様子をケイとクノンを岩陰からこっそりと伺う。
「上手くついてきてるみたいだな……」
呼吸を整えながらケイが呟く。
ケイはあれから黒服達をひきつけるためにしばらく逃げ続けている。
『ですが、このままでは時間の問題です。』
クノンの声には若干の疲労が感じられる。
「そうだな……今回の逃走はいつもと勝手が違うからな。」
いつものように逃げ切るだけではダメなのだ。
敵に完全に見失われない程度の距離を保ったまま逃走を続けなければならない。
目的はあくまで陽動なのだ。清麿達がウォンレイを助けだすまで時間を稼ぐ必要がある。
『敵は多数、しかもほぼ全員が銃で武装……きついですね。』
「いたぞ!」「やれっ!」
話の途中で黒服二名に発見される。
即撃ってくる。
「うおっ!?」
ケイとクノンが慌てて左右に散る。
「もらった!」
岩陰から出たその行動をチャンスと思ったのか、黒服の男は笑みを浮かべケイに向かって狙いをつけ引き金をひく。
マシンガンの弾がばらまかれる。
「……!」
ケイも回避行動をとる。少しの間は避けていたが、途中で弾が当たったのか地面に倒れる。
「こいつで……」
男達がとどめをさそうとする。
『終わりですよ……貴方達が。』
見た目が非武装の女の子だと思って油断したのか、クノンの接近を許していた。
電流が流し込まれ、男達が倒れる。気絶したようだ。
『マスター、生きてますか?』
「ぼ、防弾チョッキがなかったら即死だった。」
よろめきながらケイが立ち上がる。
「それにこいつらが下手で助かったよ……師匠に比べて狙いも甘いし、撃つのも遅すぎる。」
『あの御方と比較するのは可哀想かと……』
周囲を警戒しつつケイが倒れている男達の元へ歩いてくる。
視線が地面に落ちている銃にうつる。
「銃か……」
『使いますか?訓練なら私がドクターから受けていますが。』
ケイは深いため息ついて首を横に振る。
「いや、やめておこう。クノン……これはな。」
ケイが銃を手に取る、その手は少し震えている。
「人間の命を簡単に奪えるものなんだ。」
『……』
「引き金を引けば弾が出る。それだけだけど、それだけで当たりどころが悪ければ人は死ぬんだ。
これはそういうものなんだ。」
ケイの声は震えていた。
死に敏感な彼にとっては銃はおぞましいものなのかもしれない。
「魔物の術もそうだ。強い攻撃呪文は人の命を奪いかねない。
例え命が無事だとしてもどんな後遺症が残るかわからない。」
魔物の術はランク、使い手によるが下手な人間の武器などよりよっぽど強力なものが多い。
それに単純に破壊する以外の術は人間にどんな作用が起きるかわからない。
『……』
クノンは黙って聞いていた。ケイの声にどこか怒りが混じっていたからだ。
「マフィアの連中も多くの本の持ち主も……何故、あんなことが出来るんだろうな。
人はあんなにも脆いっていうのに……。」
ケイはこの王を決める戦いで何度も死に掛けてきた。
それは人間を狙うのがこの戦いにおいて相手を倒すのに一番簡単だったからだ。
頑丈な魔物に比べて人間が脆弱なのが一つ。
そして燃やせば相手を魔界に返せる魔本を持っているのが人間なのがもう一つ。
『だから、ですか?
マスターが人間相手に術を使わないのは……』
クノンが問いかける。ケイは本の持ち主に攻撃呪文を使ったことはなかった。
クノン自身の力である弱い電流を流す力で相手を気絶させることはあっても攻撃呪文は使ったことはなかった。
今回の黒服達にも攻撃呪文は一切使っていない。
「ハハハ……魔物と違って人間は弱いからなぁ。
あとすっごく痛いからなぁ、攻撃呪文って。」
『それはそうですが……なら、せめて防御呪文を使ってください。
呪文を節約したまま戦っているとマスターの命が危険です。』
陽動を開始してからケイはほとんど呪文を使ってなかった。
先程のような危険も一度や二度ではない。
「いや、俺達は臆病な獲物の振りをしていなきゃダメだ。
人間にとって魔物の力は脅威そのものだ。クノンの力がばれたら、敵が警戒して本気で襲ってくる。
俺達が今、生き延びているのはまだ相手が侵入者を”人間”と認識しているからなんだよ。
俺達が警戒されるということは優男達が発見されたとき、あいつらが危険な目にあっちまう。
全力を出すのは逃走するときでいい。」
『……ですが、マスター。』
クノンがいつになく食い下がる。
彼女は焦りを感じていた。自分の命より他者の命を優先する。
それはケイにとって、とても危険なことなのだから。
(……101番目の魔本事件のようなことが起きなければいいのですが。)
「それにまだ嫌な感じがするんだ、誰かに見られているような。
あの島からずっと……多分つけられてる。」
『まさか……魔物?』