
LEVEL56 戦う勇気 後編
「スカウト……俺達を?」
「ええ、No2の強い推薦でしてね。
こうしてわざわざ私が出向いたわけですよ。
貴方が望むなら栄誉あるナンバーズの位、No4の地位を与えましょう。」
「No2?」
ケイが首をかしげる。予想以上の待遇だったからではない。
(俺達が戦ったのはNo1とNo3のはず……何でNo2が?)
記憶をたどってもNo2とは出会った覚えもない。
何故ここでNo2の名前が出てくるのか彼にはさっぱりだった。
『随分勝手な話ですね。貴方達デスブレイズ……特にナンバーズが私達に何をしたか忘れたとは言わせません。』
若干怒りの篭った声でクノンがロードを睨む。
ケイはかつてナンバーズ二人の襲撃によって危うく命を落としかけていたことがあった。
助かったのは半ば偶然で一歩間違えればこの場にはいなかっただろう。
「ああ……、あれはテストだったのですよ。
必要だったとはいえ申し訳ないことをしました。」
全く悪びれた様子のない態度で謝罪の言葉をロードが述べる。
「テスト……あれが?」
「ええ、力の弱い魔物は必要ありません。
組織に無能な駒はいりませんからね。」
「……」
ケイが絶句する。理屈はわかる。
王になる為の障害を排除し、王になった後のことも考えて有能な駒を今のうちから選別しているのだ。
だがそれを平然と命じるロードに寒気を覚えた。
(こいつは……こいつは弱い魔物とパートナーは死んでもいいと考えている!)
今まで多くの魔物を見てきたケイだがロードは異質だった。
確かに魔物の中には王になるためには手段を選ばないような奴が何人か見てきた。
だが、それでもロードのようにここまで徹底して他の魔物や人間をただの駒と障害としか思っていない奴はいない。
いや、正確にはこんな魔物を一人だけ知っていた。
「くっ……」
吐き気がケイを襲った。かつてのトラウマが蘇る。
(似ている!こいつはワイズマンに似ている!)
101番目の魔本事件、魔物の間でもほとんど誰にも知られることなく終わったある事件。
ケイとクノンはそのときワイズマンに利用されていた一人の少女を救うために戦い惨敗した。
「どうです?待遇は保障しますよ。
無論、魔界に帰った後の地位も。悪くはない条件だとは思いませんか?」
『信用できませんね……もっとも貴方の部下になる気も欠片もありませんが。』
困惑しているケイに代わってクノンが答える。
「あら……まだ話は終わらないの?」
「誰だ!?」
『!……パートナーのお出ましですか。』
高価な服に身を包んだ女性が優雅に物陰から現れる。
手には魔本。
「おやおや……ココ、待たせてすいませんね。
紹介しましょう、私の大切なパートナー、ココです。」
「フフ……よろしくね。
それにしても貴方達も強情ね。
デス・ブレイズは素敵なところよ。お金も力も手に入る。」
「……!」
ケイがココと呼ばれた女性を見たとき頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
二度と見ることのないだろうと思っていたものを見たからだ。
「それに弱い生き物を存分に傷つける場所も手に入る。
一体何が不満なのかしら?」
ケイにその声は届いていない。彼は彼女の目を信じられないものを見るように凝視していた。
「その目……その暗く冷たく濁った瞳。
ロード、お前!その子の心を!?」
『!?』
「ほう……一目で気づきましたか。
なるほど、No2が推薦するだけのことはある。」
感心した声をあげロードがケイを見る。
「勘違いしないでね?全ては私が望んでいること。
弱い生き物を傷つけることも、物も破壊することも……そして、貴方達を今から殺すことも。」
「なっ!?」
『……どういうつもりですか?』
「おかしなことを聞きますね。望み通りに動かない駒が必要だとでも?
クノン、貴方の力は誰かと協力されると面倒なことになる……そういうことですよ。
魔物の能力もそうですが、人間の逃走能力も少々厄介でしてね。魔物が消えても目障りなんですよ。」
『つまり、部下にならなければここで消す……そういうことですか。』
「その通りです。
貴方達の選択肢は二つ。
私の部下になるか、ここで死ぬか。」
ロードの手がケイ達に向けられ、ココの持つ魔本が光だす。
どう見ても脅迫だった。
「……!」
あまりにも理不尽な選択に叫びたい衝動を堪えながらケイがロードを睨む。
今、下手に刺激するわけにはいかなかったからだ。
横を見ればクノンが冷静になるようにと目で合図を送ってきた。
(逃げるしかないか……いや、しかし)
「貴方達のことは少し調べさせていただきました。
この状況では貴方得意の逃走能力も生かせない。
賢明な答えを期待しますよ。」
ロードがケイの胸中を察したかのように先んじる。
(周囲は海、逃げ場はない。恐らくボートも破壊されているだろう。
何より……上でまだあいつらが戦っている。
自分とクノンだけならまだ逃げ切る自信はある……だけど俺達だけが逃げれば奴はきっと上に向かう!)
ロードならそうするという確信があった。
そうなれば捕らえられているウォンレイとそれを救出に向かった清麿達が危険だ。
導き出した答えは今は逃げ出すことは不可能だということ。
(どうする!この状況でどうしたらいい。
優男と合流……背後から狙い撃ちにされるのがオチだ。
何か手はないのか……いや、ある。一つだけ手がある。
最悪の事態を想定したCルートでの行動。)
「ああ……答えは決まったぜ。」
ケイがクノンに視線を送ると彼女はゆっくりと頷いた。
二人進んで前に出る。
『私達は』
「どっちも選ばねぇ!!」
魔本を構え、ロードに叫ぶ。
それは明確な戦いの意思表示。
「やれやれ、予想以上の単純バカですね。命を無駄に捨てるとは。
まぁいいでしょう、元々No2の推薦なのが気にいらなかったことですし。」
「フフ……じっくりいたぶって殺してあげる。」
『馬鹿なこと……本当にそう思いますか?』
「耐えるのは得意でね。俺達は負けないだけでいい。
あんたをボッコボッコにする役目は優男に任せるさ。」
清麿がウォンレイを救出して、彼らが上にいる魔物を倒した後、合流、協力してロードと戦う。
それがケイが見出した最後の希望。
「ククク……赤の他人、それもライバルである他の魔物をそう簡単に信じるとは。
馬鹿を通り越して面白い。」
「ふん、少なくともあんたよりは信頼できるね。」
(頼むぜ……優男。)
全ては清麿とティオにかかっている。
攻撃能力がほぼ皆無なケイとクノンではロードを倒すことは到底できない。
ならば、出来ることはただ一つ。ロードの攻撃を耐えしのぎ、なおかつここに足止めすること。
(くそっ、自分の考えながら無理すぎる!相手はロード……No0でデス・ブレイズのトップだぞ!)
恐怖で足が震える中、なけなしの勇気を振り絞りロードを睨みつける。
その様子を見てロードが薄く笑う。
「面白い……遊んであげますよ。
さぁ、死のダンスを踊るがいい!」
「やってみろよ!この仮面野郎!」
「ラドム!」
「ゼシルド!」
放たれた爆発をエネルギー障壁が受け止める。
長い戦いが始まった。