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今夜の番組チェック

“彼女”とちゃんとした“再会”は、これが初めてだと思う。
“あの頃”はお互い“敵同士”だったけど、今は違う。
 だけど何故か彼の心の中では彼女と会う事に抵抗を感じていた。
 だから彼はフランスに留まった。
 フランスにさえ留まっていれば会う事は無いと思っていた。



 ───ある一通の手紙が届くまでは………。






“私たち、結婚します”






 ───事の始まりは一ヶ月ほど前にまでさかのぼる。



「……手紙?」

 フランスの某有名大学の寮で日々を生活している黒須刃───旧名ヴィリシュ=バレンタインの元に一通の手紙が届いた。学生寮のポストに広告や下らない勧誘は頻繁に来るが手紙が来るのは珍しい事だ。

(知らない名前だな……)

 差出人の名前はローマ字で“ソウホク=キタノ”と書かれている。日本に在籍してた時間が長かった刃はこれが日本人の名前である事が直ぐに解った。

(論文のファンレター?)

 だとすればこの日本人はもの凄く奇特な趣味の持ち主だ。刃が出す論文は物理学か医学に関する物。ハッキリ言って接点も無ければ専攻している分野と全く違う。
 最近出した論文はラテックスアレルギーに関して。もしそうだとすればこの日本人は医学を志している者だろう───そんな勝手な考えを思い浮かべながらペーパーナイフで封を切って中身を取り出した。


“拝啓 黒須刃江”


 序文がいきなりこんな感じである。しかも“様”では無く“江”と来ている。かなりの古風な出だしである。


“突然のお手紙で申し訳御座いません。私の名前は北野蒼北と申します。
 この度私とココさんは結婚する事になりました。ココも是非貴方に来場して欲しいと
懇願しています。勝手なお願いとは存じますが是非日本の方へ足を運んで下さい。
経費はこちらで負担致します

                                   北野蒼北”



 後は式に関する細かい事が記されている。正式な結婚式ではあるようだが知り合いに頼んで容易して貰った式場なのだろう───そう言った事が付属されてる書類からでも直ぐに解った。

「………。ココが結婚……か………」

 それは何時かはやってくる事だと思っていたがまさかこんなにも早く来るとは思わなかった。しかも相手は日本人。察するに高学歴の持ち主なのだろう。
 自分の中でココはまだ子供の様にも思える。だから刃はこの結婚の事がどうしようも無く不安で仕方が無かった。頭の中で様々な考えが検討されているうちに、手紙は無意識のうちに床へ落ちていた。

『ピロロローン!』

 手紙が落ちた事に気付かなかった刃を現実世界に戻したのは電話の呼び鈴だった。直ぐに刃は応答に出たがどことなく気乗りがしない様子だった。

「……はい」
『もしもし。私よ』
「………シェリー?」

 このタイミングでシェリーからの電話と言うのは何とも不思議な物だろう……っと、刃は思った。
 シェリーはココがゾフィスに操られる前の、世界で唯一にして無二の親友であり、良き理解者だ。

「……論文の苦情なら受け付けないぞ」
『そうも行かないわよ。そもそもなんで考古学専攻している貴方が───』
「今お前と議論するほど精神的にゆとりは無い」
『……? どういう意味?』
「…………。お前、知らないのか?」
『だから何なのよ?!』

 半ば苛立ち始めたシェリーが逆ギレを起こして刃に突っかかってくる。この様子から察するに、シェリーの元には手紙は届いてないらしい。

「結婚するんだと、ココの奴」
『………ちょっ!? 何よいきなり?!』
「俺が妹のココをダシにしてこんなデマ話作ると思うか?」
『そーじゃなくて! 結婚って誰よ!? 写真とか添付されてないの!? って言うか何処の馬の骨よ!?』
(……。北野の奴偉い言われようだな………)

 シェリーが取り乱す理由も解らなくは無い。なにせ自分と同じ位ココを大事にしている人だ。だがここに来てふと刃の中で疑問が浮かんだ。

(どうして知らせるのが俺なんだ?)

 てっきり刃はシェリーにも報告をするかと思ってた。だがココはシェリーに手紙を出してない。いや、手紙を出したのは蒼北とか言う男だが宛先を指定したのは恐らくココだろう。間違いない。

『それで!? ココは何時たぶらかされるの?!』
「……。お前馬鹿だろ………」

 シェリーの逆ギレっぷりに流石の刃もため息を付かざるを得なかった。

『ちょっ……一体───』
「ココが選んだ相手なんだからココの事信用してみたらどうなんだ?」
『………』
「ココが心配なのは解る。だからって何時までも“かごの鳥”にする訳にも行かないだろ。
 お前も、俺も、何時かは巣立って行くんだ。だったら其奴が本当にココを幸せに出来るかどうかを見定めるんだ」
『……。御免なさい、取り乱して』
「良いさ。お前の取り乱しは慣れっこだ」

 また怒りと怒濤の罵声が電話越しに飛んでくるかと思ったがどうやらシェリーも大分落ち着いた様だ。

『それで、改めて聞くけど式は何時なの?』
「丁度来月。同伴者歓迎って書いてあるから参加しても問題無いよ」
『そう。詳しい場所は?』
「空港のチケットとか同封されてるけど向こうに手間賃出させる訳にも行かないからお前が奢ってくれ」
『えぇ良いわ』

 それからシェリーに同封されていた書類の内容を幾つか伝えてから日本へ来日する日を決めて電話を切り、改めて手紙を読み返してみた。

(ん? もう一枚別の手紙がある?)

 書類の隙間に紛れ込んでいて気付かなかったがどうやら手紙はもう一枚あったようだ。本文がフランス語で書かれている所から推測するとココだろう。



“兄さん、お久しぶりです。話はシェリーから全部聞きました。シェリーにも直接手紙を出そうと思ったけど恥ずかしいから兄さんの口から直接伝えて下さい。
 私は今までシェリーと一緒に私の人生を歩んでました。けれども時々、自分に訊いてしまうのです。

 『ココ、本当にこのままで良いの』って。

 私の育った環境は決して裕福な所ではありませんでした。でもその代わり、シェリーと言うかけがえの無い親友が出来ました。
 辛いこと、悲しいこと、楽しいこと、全部シェリーと一緒に分かち合って生きてきました。でも何時までもシェリーの足手まといになるのは……嫌です。
 勿論それは親友を止める……っと言う事じゃありません。私とシェリーは今まで通り……ううん、きっと今まで以上の仲になると思います。シェリーはちょっと強情で頑固な所もあるけど、私の事ちゃんと解ってくれる気がします。だから今回の様な突然の申し出も、猛反対されるかも知れないけどそれは私の事心配してくれるから反対してくれると思います。
 今、この手紙を書いてる頃、私は日本の学校に居ます。沢山のクラスメイト達の笑い声が聞こえてとっても幸せです。
 兄さんにもこの幸せをお裾分けしてあげたいです。
 ………ねぇ兄さん? 私たちが会っていた時間は限りなく少ないかも知れないけど……兄さんは私のお兄さん、ですよね?
 本当の事を言うと、私は兄さんに会うのが少し怖いです。どんな顔をして会えば良いのか解りません。それでも私は兄さんに会いたいです。
 最後まで手の掛かる妹で御免なさい。でも兄さんに面倒を掛けるのはこれで最後にします。私には私の人生があるように、兄さんには兄さんの人生があるから。
 それじゃ、来月に会おうね!

P,S たまには連絡してね。首を長くして待っています”



(………馬鹿だな。ココの奴)

 ココの手紙をゆっくり時間を掛けて読み終えてから刃はそっとため息を付いた。

「別にお前に心配されなくても、俺は今まで通りやっていけるのによ………」

 そう思うと、何故か妹がとても手間の掛かる奴だと思えた。なにせ自分はゾフィスに洗脳されたココを助けたのだから。それで全てが丸く収まった訳では無く、その後刃は黙ってココの前から去っていった。

「ココ……結婚おめでとう………」

 手紙の文字を人差し指でなぞりながら刃はそっと呟いた。






───それから一ヶ月後






 ココの手紙に同封されてた結婚式場は教会だった。日本の結婚で教会と言うのは非常に珍しい事である。
 だがそれ以前に不思議なのは招待客が少ないと言う事。普通、どんなに少なくとも30,40人くらいは知り合いを呼ぶのだがこの場に集まっている知り合いはシェリーと刃を除けばシェリーの執事とかつての戦友、高嶺清麿にパルコ・フォルゴレ、大海恵の四人だ。だがこれだけ少人数でかつ静かだとこの結婚式がとても神聖な物の様に思える。

「(やっぱり気に入らないわね……)」

 新郎───蒼北の顔をチラチラと睨みながらシェリーが小声で呟く。

「(なにが“東京大学卒業生”よ。高学歴持ってれば良いって物じゃ無いでしょ世の中。ココもココよ。なんであんな男と───)」
(この席嫌だな……)

 思い切り不満のあるシェリー。神聖な空間と憎悪との狭間で結婚式を見届ける刃。“ココ様が、ココ様が……”と呟きながらうれし涙を白いハンカチで拭う執事。初めて結婚式に出席して思わず魅入っている清麿と恵。二人を暖かく見守るフォルゴレ。それはかとなくそれぞれの持ち味が出ている結婚式だ。

『汝、ココ=バレンタインは夫北野蒼北と共に幸せを分かち合い、立ち向かう苦難を乗り越え、永遠に愛し合う事を誓いますか?』
「(断るのよ、ココ!)」
(握り拳まで……相当嫉妬してるんだなシェリーの奴………)
『誓います……』
『ピシ……』

 この瞬間、シェリーの中で何かが壊れ落ちた───ような音がした。よほどココが結婚する事がショックだったらしい(取り合えずサルベージする気力も無い刃はシェリーを放置、)

『汝、北野蒼北は妻ココ=バレンタインと共に幸せを分かち合い、立ち向かう苦難を乗り越え、永遠に愛し合う事を誓いますか?』
『誓います』
『では、誓いのキスを……』






 その後が大変だった。ブーケトスは恵が受け取った事で事なきを得たかと思えば宴の時にシェリーがチャポン(複数のお酒を一気に飲んで重度の酔いになる事)を起こして新郎とココに加えて刃に絡んだ挙げ句ばたりと倒れて刃がホテルまで送り出す事になった。

「シェリー、飲み過ぎだぞ」
「うっさいわよぉ〜、ココがぁ……わたしのココがぁ〜〜……」

 酔ってるせいか、言動も怪しい。

「何時からお前のココになったんだよ……」
「ずっと前よぉお。わたしはねぇ、あの子の趣味とかぁ、好きな食べ物とかぁあ───」
「はいはい……」

 シェリーの愚痴を流しながら部屋でシェリーをベッドに横たわらせた所で───ようやく刃も居心地が付いた。

(後は淋しく一人酒かな……?)

 明日はベルモンド家の専用セスナ機で祖国に帰る。心優しい執事は“予定はそちらに合わせる”と言っているがあまり長居する訳にもいかない。
 刃はホテルに設置されている電話を使い、執事の部屋へかけた。

「……私です。明日の午前10時に荷物をまとめて伺います。……はい………シェリーはチャポンです。……いえ、急性アルコール疾患には陥っていません。いびきをかいてるだけです。……ハイ、夜分失礼しました」

 電話を切ってから刃はそっとした足取りで部屋を出て行った。

(本当に………ココは結婚したんだよな…………)

 ブーケトスを投げた時のココの姿が今でも良く目に浮かぶ。成長したココはいささか幼さが残っているがそれが逆に男心をくすぐる。もうココは自分の知っているココでは無く、一人の女性へとなっている。

(もう、会う事は無いだろうな)

 日本とフランスは遠い。並大抵の資金源では到底逢いに行ける距離では無い。だがこれで良いと、何故か刃はそう思える。兄が居れば邪魔になるだけだから……。

「お幸せに……てな、ココ………」


 

後書き
長い上に中途半端な終わり方ですなぁ。ちなみにこの小説は前回投稿した“幸せの形”の続編と言う事で読んで頂ければ……って、もはや続編にすらなってないなコレ………(遠い目)
コッチはまぁ、カルマみたいな終わり方ですが私のHPに幸せな刃×ココ小説が一本だけありますので宜しければソッチの方も見て頂ければ幸いです。
それでは(^^)/^^^^^